いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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ずっとずっと窓の外を。

▲いつものことながら四月というのは、天気も気持ちも落ち着かなくて。
それでも、その日 朝一番に雨戸を開けたら まぶしいばかりに朝の光が廊下や畳に勢いよく差し込んできた。前日の雨も風もうそのように、きもちよく晴れ上がった空に 何かのコピーみたいに「そうだ。吉野に行こう」と思い立つ。

▲天王寺に着いたのはまだ10時前で、デパートも閉まってて何も買って帰れないから「お昼は駅構内にあるパン屋でサンドイッチでも買って行くし」と母に電話したら「帰って来なくてもいい」と言ってたのに「あ、サンドイッチやったら作ってあるねん」と弾んだ声が返って来た。
その日は実家から仏壇やピアノを姉のところに運ぶ日で。ばたばたするだろうと前夜おそくから作っておいたらしい。その用意周到さにすごいなあと 思う 行き当たりばったりの娘だ。

▲吉野行きの特急電車は出たあとで、急行に乗り込む。桜の盛りをすぎて 人出も少ないかと思ったのに、車内はじきにハイキング風スタイルの中高年の小グループでほぼ満席になる。
懐かしい近鉄電車の海老茶色のシートに座り込み、わたしは遠足に来た子どものように身をよじってずっとずっと窓の外を見る。

▲同じように外を眺めながら扉近くに立っている非番の車掌さんの先輩・後輩風二人が話してはる声が聞こえる。
「ちょっと前みたのと、もうちがう。だんだん、どんどん緑が濃くなっていきますねえ」
「あれっ?鯉のぼりやなあ」
「あ、ほんまや。じつはうちもね迷ってますねん。ヨメさんの家から何や送ってくる、て言うてますねんけどね。家は狭いし・・鯉のぼりやったらええかな、と思ったんやけど。ヨメが五月人形って言いよるんですわ」

▲昔は田圃と畑とうしろに山しか見えなかった沿線も、あたらしくて、ちょっと気恥ずかしいような明るい色の おんなじ格好をした家が何軒も連なって建っている。すぐそばに、取り残されたみたいに大きい古びた家がぽつんとあって、その家の広い玄関先に鯉のぼりが きもちよさそうに青い空をバックにゆったり泳いでおり。車掌さんならずとも「そりゃ兜や鎧よりこれやで」と言いたくなる。

▲やがて聞き覚えのある駅の名前が続くようになって かつて通った高校のあるまちに。
窓のむこうに、ふてくされて歩く制服姿のわたしが見えるようだ。脇に抱えたレコードと本だけが救いだった十七才のわたし。突然 ガッコ帰りによく行った濃い珈琲とアイスまんじゅうのおいしい(救いはココにもあったんだ!)「純喫茶」を思い出すも 名前が出てこない。

▲少しずつ緑濃く深くなる山と、ふるさとのことばに近い話し声が耳に入るようになると、ますますわたしの眼は外に吸い寄せられる。駅舎がすっかり変わってるところや記憶にあるままの駅もあるけど。そうしているうちにジッカのある田舎町に着いた。
建て込んでいた家が歯抜けのように、ところどころ更地になって母が言うところの「としよりのまち」はひょろりと、ひっそり
在って。

▲ジッカに着いたときにはすでに仏壇が運び出されていて、あちこちの戸を開け放してあった。
仏間の外の庭には、昔 池があって料理用の鯉やうなぎを放していていた。料理するときに、ぼんさんと呼ばれる若い見習いさんが池から竹駕籠に網で掬うのだけど、うまく掴めなくて鰻が手からすべって大奮闘していたのを、きゃっきゃっ言って姉や仲居さんたちと見ていたことを思い出す。

▲そういえば、網で掬うのをのぞき込んでて、何回かこの池に落ちたことがあった。うなぎのぬるぬるがつめたくて気色悪くて思いっきり泣いて、うなぎなんか、と思ったくせに今もうなぎはすき。
旅館を別の所に移転してから、その池はじゃりで埋めてしまったのだけど。子どもの時にプールのようにも思えた池が久しぶりに見るとうんと小さくてびっくりした。

▲仏壇を動かしたあとはそこだけ時間が止まったみたいに、色白の板の上に綿埃が舞っていて。雑巾で拭いてたら なんか胸がいっぱいになった。
そのうちピアノの業者さんも来て、古くて重いピアノも運び出してもらって この日の予定は終了。
掃除が終わって母とサンドイッチをつまむ。薄焼き卵とハムの入ったのと、ハムとレタス入り。おいしかった。

▲どちらからともなく、古いアルバムを開いて母と娘の「むかしばなし」は尽きることがない。
あっという間に夕方になって電車の時間が来た。
帰りは特急で。
窓の外はすでに薄暗く、朝のセンチメンタルなきもちもすっかり忘れて熟睡。
「次は終点、あべのばしぃ~」のアナウンスに飛び起きるのだった。
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by bacuminnote | 2006-04-29 21:28 | yoshino | Comments(0)