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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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うそ。

▲朝から散髪に行った。
いつもの美容師さんが開口一番「いいにおいしますねぇ」と言う。「いいにおい」などつけていないしなあ、とぽかんとしてたら「○○さん、おいしいにおいしますね~」とにっこり。なぁんだ。そういうことなのか、とわたしはセーターをくんくん。朝、息子のお弁当を作って来たからかな。

▲母がまだ仕事をしていた頃、出かけた先でよく「おくさんが入って来たらお寿司のええにおいするわ」と言われるねん、と言ってたっけ。いつだって出かける直前まで調理場にいてたから。それにいくら着替えても、からだに においが染みついてたのかもしれない。そうだ、わたしもパン屋のときは「わあ、麦麦(ばくばく)さんが来たらパンのにおいがする!」と言われてたこと、おもいだして。「おいしいにおいがする」と言うてもろて、なんか晴れやかなきもちの一日だった。

▲食べることや台所、食卓まわりの空気がすきなので(このごろ「作る」のはちょっと億劫になってきてるけど)本を読んでも映画を観ても、食事のシーンはベッドのシーンより(ん?)気になるし、わくわくする。というか、たいてい好きな本も映画も食事の場面がいいかんじに充実してる。
食べることは生きることやもんね。
だけど、その「食」にまつわる「嘘」は後を絶たない。

▲その昔『暮しの手帖』で湯木貞一氏の連載『吉兆つれづればなし』をたのしみに読んでいた。一流の料理屋さんが語る料理のあの話この話は けれど決してエラソーでなく、語り口もやわらかで、ほんのりぬくぅて、薄味なのにしっかり味の染みこんだ高野豆腐みたいにええ味で。近づけそうで遠い。

▲けど高野豆腐戻すように、ゆっくりやったらよろし~と言うてくれてるみたいで。
あ、そういえば高野豆腐の戻し方についても言うてはったな~と(いま手元に本がないのでネットで調べてみたら、ある方のブログで紹介されていた)

▲『高野どうふをもどす ...こう書くと、なんだか、たいそうなようですが、なれてしまって、高野どうふをもどすのは、こういうものだ、とおぼえてしまった、じつはなんでないものです。
なんでも、はじめは、やったことがないから、大そうな気がするものです。それを、まあこんな事までしなくてはならないのか、と思ったら、もうあとは厭になるだけで、これでは損です。一ぺんやったら、二度目はずっとらくになります。三度目はもう手に入って、こんなことは、あたりまえのことになって、はじめ、どうしてあんなにたいそうに思ったのか、おかしくなります』(『吉兆味ばなし(一)』p38~40より抜粋)

▲いま改めて読むと、皮肉にも報じられた吉兆のあれこれが、つい重なってしまう。
さて「嘘」といえば、この間読んだ本はその名も『水曜日のうそ』というタイトルだった。けど、こっちのうそは愛のうそ。前に観た映画 『やさしい嘘』にも通じる 年老いた父や母に子どもや孫がつくうそ。そして、そんなうそ以上に年寄りの「やさしいうそ」の物語である。

▲82歳のコンスタンおじいちゃんは毎週水曜日の正午になると、自分ちでお昼ご飯を食べてから(おじいちゃんのランチは早くていつも11時すぎなのだ)近くに住む孫娘のイザベルの家にやって来て30分間すごす。

▲家に着くと、まず熱いお湯にスプン一杯のインスタントコーヒーだ。本物の珈琲をいれようか、というと「そんな、もったいない」と気分を害したみたいに答えるおじいちゃんなんだけど、彼は音楽には かなりこだわりがあって。
そんな好みをちゃんとわかっているイザベルは上等のプレーヤーにモーツァルトのCDをいれる。すると「これは・・・『幻想曲ニ短調K397』だな?ピアノは・・ウイルヘルム・ケンプ?」なぁんてね、おじいちゃん、それはうれしそうに答えるのだった。

▲おじいちゃんの息子、つまりイザベルのパパは忙しい中 いつも時間をやりくりして、その日を迎えるのに、いざやって来ると父親が繰り返し話す思い出話にも、腰痛の話と愚痴にもいらいらしている。だけどイザベルはおじいちゃんがだいすきなんよね。

▲ところが、パパにリヨンの大学助教授への誘いが来る。しかもママは15年ぶりに赤ちゃんが生まれる・・ということで、一家は引っ越ししなければならない事態になる。
けど、おじいちゃんは自分の家から離れたがらないだろうし、引っ越す事を知ったらどんなに動揺するだろうか・・・悩んだあげくパパは引っ越しても毎週水曜日の正午には、だれかがここに戻って30分間おじいちゃんとすごす事を考える。

▲そこで、パパはマンションの買い手に「週一回部屋を貸してくれること」を条件に値下げして、一家はおじいちゃんには何も告げずにリヨンへと引っ越すことになって・・・とまあ、この無謀な計画で、おじいちゃんについた「うそ」がゆえに、想像以上にいろんなことがあるんだけどね。

▲あるとき、イザベルがボーイフレンドのジョナタンとおじいちゃんちを訪ねて行って、芝居好きなジョナタンとその昔プロンプター(劇場で俳優に小声で台詞を教える仕事)をしていたおじいちゃんと芝居や俳優の話で盛り上がるんだけど、そのときのおじいちゃんのシアワセそうな顔といったら。

▲そして、庭でとれたカシスのお酒を若い訪問者たちに注ぎ「きみたちのために。きみたちふたりのために」と乾杯するところは映画のワンシーンのように、しずかにこころに残る。
そうしてイザベルは思うのだった。
「自分が思ってることをちゃんと話せるときには、愚痴など出てこないのかもしれない」ってね。

by bacuminnote | 2007-12-09 12:34 | 本をよむ