人気ブログランキング | 話題のタグを見る

いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

年暮れきりし。

▲クリスマスの翌日、義母にたのまれた竹輪とかまぼこハーフサイズを買いに近くのデパート行った。うかうかしていたらあっという間に店内はお正月モードに入れ替わってしまうから、と思って出かけたのだが。26日にしてウインドウの中身は すでに金ぴか「迎春」シールをぺたぺた貼った 紅白のかまぼこやら、だて巻がずらり。結局どちらの品物も置いていなかった。

▲街はクリスマスが終わるやソッコウ迎春商戦に入るんよね。そんなもんには巻き込まれないぞ、と「いつもどおり」に徹していたつもりが、ここ数日買い物に行くたびに財布が予想を上回り軽くなっている(いや実際は紙幣が消え小銭が増えて「重くなっている」のだが)

▲連日スーパーやデパートの食品売り場はすごい人出で、みんなそれぞれに、ぎっしり書き込まれた買い物メモを片手に、カートの上のカゴはどの人のも満杯だ。
ウチはいつもどおりで・・と思っているのに。デパートだって、スーパーだって定休日は一年に一回。もはや元旦の一日だけなのに。ついつい明日の分、あさっての分、とカゴにほおりこんでいるおろかもの(←わたし)

▲地上にあがると、つめたい風がほてった頬にきもちいい。深呼吸の後、ため息ひとつ。「来年」でもよかったあれやこれやを浮かべつつ、腕に食い込んだ買い物袋が重い。

▲このあいだ図書館で本棚をぐるぐる回っていたら ヴィンセント・ギャロ・絵、と書いた本 『茶色の朝』(フランク・パヴロフ著/藤本一勇 訳/大月書店刊)に出会った。棚から声をかけられるような、本との出会いは わくわくする。
えっ?あのギャロ?と、手に取る。色とりどりの花、えんぴつで落書きしたような絵がいい感じ。

▲そう言えば、と、この本(日本語版)が出版された当時、あちこちで書評を見て、読みたいと思っていたことを思いだした。その頃は山暮らしで、近くに本屋も図書館もなくそのままになっていたのだけれど。絵をギャロが描いていたとは知らなかった。すでに読んだ方も多いかもしれない。でも、今さらながら、いや、今だからこそ、と思うので紹介してみようとおもう。

▲お話は、陽の光がふりそそぐビストロで、主人公の「俺」が友人からペットのラブラドール犬を安楽死させたことを聞く場面から始まる。ちょっと前に「俺」が白に黒のぶちの猫を処分したのと同様に。それは政府が茶色の犬や猫しかペットにしてはいけない、という法律を作ったからだ。「俺」は胸を痛めつつも『人間ってやつは「のどもと過ぎれば熱さを忘れる」ものだ』と流してしまう。

▲ところが、そのうちこの法律を批判していた新聞が廃刊に追い込まれる。次は図書館の本だ。その新聞社系列の出版社がつぎつぎ裁判にかけられ、そこの本は強制撤去される。
その主人公と友人は、だれに会話を聞かれているかわかったもんじゃない、と「用心のために」ふだんの会話にも、あらゆる言葉に「茶色」という修飾語をつけ加えて話すのが習慣になってしまう。そのうち、「茶色にそまること」に違和感を感じなくなっていく。

▲ある日、二人はお互いにペットの「安楽死」の後、茶色の猫と犬を飼い始めたことを知って、笑い転げる。
『街の流れに逆らわないでいさえすれば 安心が得られて、面倒にまきこまれることもなく、安心が得られて、面倒にまきこまれることもなく、生活も簡単になるかのようだった。茶色に守られた安心、それも悪くない』と。

▲しかし、そのうち友人が、多くの人たちが、過去にまで遡って「法律に合わない」犬や猫を飼ったことがある、という理由で逮捕され。とうとう「俺」の所にも「やつら」が来る、ところでお話は終わる。

▲この本(原書)は極右の進出に危機感を持った著者が広く若者に読んでもらいたいと印税を放棄し1ユーロで’98年に出版されたそうで。日本語訳の方は原文にギャロの絵と後半に高橋哲哉氏のメッセージ(『やり過ごさないこと、考えつづけること』)が加わる。高橋氏によれば、ヨーロッパで「茶色」はナチズム、あるいはファシズムの象徴だとか。

▲氏は言う。茶色の朝を迎えたくなければ『自分自身の驚きや疑問や違和感を大事にし、なぜそのように思うのか、その思いにはどんな根拠があるのか、等々を考えつづけることが必要なのです』と。

▲本を読むのは数分だったけれど、読んだあともずっとこのことを考えている。
本は薄いけど重く、明るい装丁ながらこわい話だったが、年の瀬にふさわしい読書だった。そうだ。やっぱりだいじなことは「考え続ける」こと。そして おかしいことには「おかしい」と言う勇気なのだと。

▲さて、今年もあと一日でお仕舞いです。
いつも読んでくださってありがとう。いっぱいありがとう。
前にも書いた気がするけど、すきな句ひとつ。
『うつくしや年暮れきりし夜の空』一茶
どうぞよいお年をおむかえください。

by bacuminnote | 2008-12-30 23:14 | 本をよむ