いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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鹿が走ってゆくのが見えた。

▲ 昨日 相方とおにぎり四個にビスケット、熱い番茶を入れたポット持って出かけた。
天気予報の通り冷たい風ふく寒い朝だったけれど、道中ゆりの木も桜も、緑がうす青の空に映えて清々しくうつくしく、何度も足をとめて見上げる。
街行く人はダウンジャケットからジョーゼットのスカートまで。(←寒そう)。
年寄りみたいに「寒いなあ」をくりかえしながら歩く。
いつになったら「ほんまもんの春」になるのやら。

▲地下鉄から近鉄線に。二人で吉野行きの電車に乗るなんて、十数年ぶりかもしれない。例年ならこの時期には平日でも、まだ花見客でいっぱいになる電車だけれど。今年は桜が早かったからか、出かけたのが遅かったからか、特急の車内には空席が目立つ。中高年のお客さんが多いなか、通路はさんで隣は若いカップルで、缶ビールと柿の種。香ばしいにおいに軽やかな笑い声~よろしなあ。二人でお花見やろか。

▲ 少ししてお昼になったので、わたしは先に一人おにぎりを食べ始める。すると隣から「あのーおかあさん」と男の子の声。一瞬「え?」と思うが、まさかね~と顔をあげると、どうも視線はわたしに向けられており。「おかあさん」はわたしへの呼び名だと気づいた。
「あのーこの1号車って、禁煙車両ですよね?」
「はい。禁煙ですよ」
「あ、そうですよね。ありがとうございます。えっと、おかあさんたちも吉野に行かはるんですか」

▲おかあさんって、知らん子に呼ばれてもなあ。けど「おばちゃん」では失礼やと思ったのかもしれないし「オクさん」なんてうたら「安いで、安いで~奥さん、買うたってや~」の市場のおっちゃんみたいになってしまうしね。
皮ジャンにちょっと腰落とし気味のジーンズ、黒のブーツに茶色のヘア、わたしみたいなおばちゃんに話しかけてくることなど、まずないやろ、と思うようなお兄ちゃんやったけど、えらくフレンドリーに話しかけてきはるのであった。

▲ 花見かと聞かれたので、相方が病院に見舞いに行くねん、と答えると
「・・・おっちゃん(花見なんか)関心なさそうやもんねえ」と返ってきて内心笑う。わが相方に「おとうさん」とは言いにくかってんやろなあ。そうして「おかしいと思ってたんですよ。吉野着いてから弁当食べたらええのに、おかあさん、電車の中でもう食べてはるから」と言うので大笑い。お兄ちゃんは、カノジョがこしらえてくれたお弁当持って、まだ花の残る奥千本まで行ってお花見~とのこと。

▲ そのうち相方もおにぎり食べて(←ウチのカノジョはおにぎりだけ・・苦笑)花は散っても吉野の山の葉桜のうつくしさを語ったり。(←おっちゃんも関心がないわけちゃう~)思いもかけず「おかあさんら仲いいですねえ」とか言われて焦ったり。
やがて「つぎは吉野口~」というアナウンスに、がさごそと降りる準備を始めるお隣さん。
「次ですよね?」とごきげんなお兄ちゃん。「ちゃう!ちゃう!こんなとこで降りたら奥千本まで行きつかへんよ」と、切符見せてもらったら吉野口までしか買ってなくて。みんなで大笑い。吉野口のあと5つ目の終点が吉野駅なのである。

▲「吉野」って名前がついてたから、とりあえず切符買った、という若い子らのアバウトさを「ええかげんやなあ」と 呆れたり笑ったりしたけど。ひとのことは言えんのであった。
その昔、カナダに旅したときのこと。ジャスパーを目指す途中、ゴールデンという町を出てつぎの宿泊地にレンタカーで向かってたわたしたち。渋滞など無縁の広い道路で、前の車が動かないと思ったらマウンテン・ゴート(山羊)やムース(鹿)が道をふさいでて、親子で「おお、カナダ!」とごきげんやったんよね。相方に運転ごくろーさん、もうじき宿や~とかなんとか言うてたところに、うまい具合に観光局インフォメーションの前を通ったので、念のため予約いれた「アサバスカ・モーターイン」の場所確認しとこ、と入ったら。

▲ 係の人が「ほんとうにこのモーテルを予約したのか?すぐキャンセルしなさい」と言い出して。なんせフウフ揃って中学2年程度の英会話力しかないから、通じてへんのやろか、と会話集で用語例を探して言い方を変えてみたり(苦笑)「とにかく、どのあたりか教えて」と地図を差し出したら。アサバスカ川の載ってるところを見えるように小さく折った地図を、彼はやおら大きく大きく広げ始めた。
「そこと、ちゃうがな~」と親子三人覗きこんでたら、彼の指が地図の端っこで止まり、そして、気の毒そうにこう言わはったんよね。「たしかにアサバスカ川はこの辺りを流れてるけど、あなたが予約したアサバスカという町はここから車で6時間走り続けないと着かないよ」

▲ いやあ、カナダはものすご広いしね~「吉野口駅」と「吉野駅」どころの話やないわけで。「あんたが悪い」「お前が軽率や」となじり合う かつてのわたしらとはちがい、彼らは言い合うこともなく「ああ、よかったぁ。ありがとう。お母さんらに会うてほんまよかったですわ。話してへんかったら、ぼくらここで降りてましたもん」と、それもまた楽しいというように笑うのであった。
まあね、コイビトたちにはたとえ間違って降りたとしても、奥千本の桜見ることのぅても、きっとええ時間すごせるんやろけど。

▲ そうこうしてるうち 先にわたしらの降りる駅になり「ほな、楽しんできて」「またいつかどっかで~」と別れた。
さて、病院に着くと母はベッドで所在なさそうに座ってた。けれど入ってきたわたしらに気づくや、ぱっと顔が明るくなったのがうれしくて、ちょっとせつないきもちになる。
旧友が個展で上京するのに、てるてるぼうずの代わりに小さなクマのぬいぐるみ(前にウチの母がつくったのを彼女に貰ってもろた)を持ってきたよ~と前夜 写メを送ってくれた。やさしい子やからね、きっと入院中の母のこと気遣ってくれたんやろなと思う。かつて親に心配かけた娘やその友だちが いま年老いた母のことを想ってる。
その写真つきのメールをプリントしてきたのを見せると「そうかぁ。あの子東京まで行ってるん?(個展)うまいこといったらええなあ」と目を細める。

▲できたことができなくなり、覚えていたことをつぎつぎ忘れてゆくのが、くやしいと嘆く母に、わたしらも一緒やで、と言うたけれど「一緒とちがう」って思ってるんやろなあ。そんな顔してたよなあ。
そう言うたら、と前に読んだ上野千鶴子の本(『ひとりの午後に』)にあった句『ひとはみなひとわすれゆくさくらかな』(黒田杏子)がふっと浮かんできたけど、だまってた。
「せっかくここまで来たのに、山(吉野山のこと)でも寄って行ったらええのに。あそこにもここにも・・・」と「観光」を薦めたり、「早よ、帰らなあかんで」と言うてみたりの母に「ようなったら、夕方、また電話で長話しよな」と言うて病室をあとにした。

▲電車の時間も調べずに出たものの、都会とちごぅてここの駅で待つのは苦にならない。しんと底冷えのする待合室で腰掛けて、相方はビスケットを食べ、わたしはお茶を飲む。リュック姿の男性が入って来られ腰掛けると、駅のホームを指さして相方に何か話してはる。
「鹿や!」と相方。えっ!鹿って?慌てて窓際に寄ると一匹の鹿がホームを横切って走ってゆくのが見えた。男性と相方は二匹見たという。山から降りて来たんやろか。どこにむかって走って行ったんやろか。
たぶんいつもはのんびり仕事してはる 駅員さんが慌ただしく電話してるのが窓口越しにみえた。


*追記
その1) 旧友の個展
うらたじゅん個展  四月の停留所へ」
会期/2013年4月19日(金)~5月8日(水)
営業時間/12:00~19:00 【月曜定休】
★4月19日(金)~21日(日)まで在廊予定。
会場/東京・南青山 ビリケンギャラリー
〒107-0062 東京都港区南青山5-17-6-101 ☎:03-3400-2214


その2) 今日はこれを聴きながら、車窓からみえた きらきらひかる吉野の川や山の中にぽつんと咲いてた桜の木を思いだしています。Ólafur Arnalds(オーラヴル・アルナルズというアイスランドの作曲家、演奏家)の"Ljósið"
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by bacuminnote | 2013-04-20 13:10 | 出かける | Comments(0)