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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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しゃべっても、しゃべっても。

▲暑いのは苦手やから。家事と買い物と、図書館や郵便局に行っただけで、夜店で買って何日かたった水風船みたいに(苦笑)だらしなくしぼんで。やらなアカンことも、しようと思ってる あんなことも、こんなことも。もう全部「また明日にでも」をくりかえしている。
そしたら、今日どっかのガッコの掲示板の写真をネットでアップしてあって。
いわく《「明日からやろう」を40回言うと、夏休みは終わります》

▲とうの昔に「早う」「早う」と親やセンセに急かされたり、怒られることもなくなったし、◯日までに提出なんてことにもすっかり縁がなくなったけれど。ぼぉーっとしてるうちに暦を一巡する、もうそんな年頃になってきてるんやから。夏休みどころかジンセイ終わらんうちに「あんなこと」ぐらいは(「こんなこと」まで及ばずとも)しようと、いつになく神妙におもうのだった。
というわけで、たった10日いっぺんのこのブログ更新もずるずる伸ばし気味の今日この頃。まずは「ここ」から始めよ。暑いけど。しぼんだ風船やけど(苦笑)

▲先日『キューティ&ボクサー』(←予告編)という映画をDVDで観た。NY在住のアーティストのギュウちゃんこと篠原有司男とその妻で同じくアーティストの乃り子さんの日々を追ったドキュメンタリー。
8年ほど前だったと思うけど、キリンプラザ大阪であった篠原有司男展に相方と息子2が行って来たんよね。現代美術に関心のある相方はともかく、当時小学生だった息子がギュウちゃんのオートバイの彫刻を気にいって「おもしろかった。おかあも来ればよかったのに」と言うてたのが残ってたから。ぜひ観たいと思ってた。

▲ ギュウちゃんはその展覧会のときすでに70をこえてはったと思うから、もう80くらいかなと思ったら、81歳になってたけど、ものすごくエネルギッシュ。一方白髪ながらお下げ髪の永遠の少女のように愛らしく、かつ辛辣で正直、魅力的な乃り子さんは彼より21も年下の60歳。
映画はいきなり家賃を捻出する話や雨漏りする家を映し出して、びっくり。
せやかてね、有名なアーティストが住んでるNYのアトリエ兼住まいが、まさか雨降りにバケツが必要で、そんな家の家賃の支払もままならない、なんて思いもしなかったから。

▲1972年美術を学ぶべくNYに来た19歳の少女は、当時すでに前衛美術家として有名になっていたギュウちゃんと出会い、たちまち恋におちてその後息子を出産。
いつのまにか美術学校からも画業からも離れて(そのことで、ジッカからの仕送りも絶たれ)文字通り生活におわれる日々。生活感に疎く、はちゃめちゃでおもしろいけど、強い自己主張〜でもどこか憎めないギュウちゃんの言動は、まさに芸術家なのだ。

▲ この二人「人の言うことを聞かないのが若さを保つ秘訣」なぁんて笑う天真爛漫な夫の発言に、即、妻のするどいツッコミが入って。夫婦漫才みてるみたいで、深刻な話にもついつい笑ってしまうけど。
次の瞬間、異国で小さい子を抱えての生活苦と、夫の良きにつけ悪しきにつけ「はみ出し」のパワーに、若かった乃り子さんの苦労を思うと胸がぎゅうとしめつけられるようだった。
映画の中で乃り子さんが言うんよね。
「ヴァージニア・ウルフが言ってるでしょ。「女性が何かしようと思ったら、少しばかりのお金と鍵のついた部屋が要る」って。

▲21も年上で、いつも自分にとって「先生だった」ギュウちゃんが恋人になり、夫になり、息子の父親になり。彼のマネージャーとして、制作のアシスタントとして奮闘して、映画の中でもときどき不機嫌な乃り子さんが、なんかちょっと痛々しくせつなかったんだけど。
中盤から彼女は画家としてふたたび動き始める。

▲自分だけの表現を得て〜自分の分身であるヒロイン“キューティー”に託してギュウちゃんとのこれまでを”キューティー&ブリー“という物語をドローイングで綴ってゆくんよね。一人は二人になって、やがて三人に。生活はたのしくて、苦しくて。コミカルな雰囲気のなかにも、キューティーの「わたしの自由を奪わないで」という叫びが聞こえてくるようで。共感。そして、そして、描いてる乃り子さんの横顔のかっこいいこと。

▲監督は最初ギュウちゃんを前面に出して撮るはずだったらしいけど、このあたりから乃り子さんの動きや正直なつぶやきがどんどん加わり、観ているわたしも「そうだ!そのとおり!」とついつい前のめりになる。
乃り子さんが言う。《あなたはわたしを無料のシェフで、秘書でメイドだと思っているんでしょう。あなたにお金があったらアシスタントを雇うわよね。でもお金がないからわたしと一緒にいるのよね

▲辛辣なこのセリフを、でも乃り子さんは新聞か雑誌を読みながら(読んだふりしながら?)下むいて、ちょっとすねた少女のように英語で話すんよね。
じっと聞いていたギュウちゃん、やおら彼女の膝をポンポンたたいて、にこにことこう応えるのであった。
”I need you “

▲完成した映画を観てギュウちゃんは「ギュウちゃんのアートの秘密に迫るといった肝心のところがなくて、興味なかったね」とがっかりしてはった。
いかにも「らしい」感想(笑)
おすすめです。
そして、前回追記(その3)にも書いたけど、やっぱり共に暮らす人と「話す」ことのたのしさと大切さ。しゃべってもしゃべっても、しゃべっても。それでもほんとうにわかりあえることなんて、一生ないのかもしれないけど。


*追記
その1)
ヴァージニア・ウルフのこの本読んでみたいです。
「女性が小説なり詩なり書こうとするなら、年に500ポンドの収入とドアに鍵のかかる部屋を持つ必要がある」(『自分だけの部屋』みすず書房→

その2)
というわけで、またまた本のこと書けなかったなあ。
とりあえずリンクだけしておきます。
『あしたから出版社』(島田潤一郎著 晶文社)
『偶然の装丁家』(矢作多聞著 晶文社)
『桜は本当に美しいのか 〜欲望が生んだ文化装置』(水原紫苑著 平凡新書)
『フォトグラフ』(エマニュエル・ギベール著  ディディエ・ルフェーヴル 原案・写真 )

その3)
きょうはこれを聴きながら。
Andrew Bird - Lull 
by bacuminnote | 2014-07-23 22:17 | 映画