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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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シュウクリームふたつ。

▲その日は父の命日だった。
一日じゅう何度となくその頃の父を、そして母やわたしの家族のこと、あとその日の天気や着てた服とか、つまらないことをぽつりぽつり思い出したりしてた。もう31年もたったから「その後」は父の知らないことだらけで。おっきな声で教えてあげたいことも、ちょっと黙っておきたいよなことも。いっぱいいっぱい溜まってるんだけど。とりあえずは四人の娘も、その家族も皆ぼちぼち元気にやってるし~って知らせたいなあ・・・とか思ってたら、なんだか母と会って話がしたくなって。翌朝ホームに行くことにした。

▲朝起きたときは曇り空だったのに、駅まで歩いてる間に降り出した雨と風が冷たくて。やせ我慢せんともうちょっと温いモン着てきたらよかったなあと、前を行くカッコイイ若者のダウンジャケットをみながら首をすくめて歩く。
母の(わたしも)すきなシュウクリーム2個と、頼まれたタオル掛けとハンガー5つ買って電車にのりこむ。(余談ながら、このことをツイッターに書いたら、旧友Jの《あーびっくりした。いくらなんでもハンバーガー5つは食べすぎやろと思ったら、ハンガーやったか》というリプライに大笑い。そういうたら原石鼎の句に「あんぱんを五つも食うて紅葉観る」というのもありましたがw)

▲あいにく飛び乗った電車が準急で、途中から各駅停車になるわ、二度も通過待ちはあるわ、で、目的の駅が遠いこと遠いこと。けど、がらーんと空いた平日昼前の車内と各駅停車のおかげで、ちょっとした旅きぶん。本も読まず、窓から走る景色を追って、なつかしい駅名とプレートに書かれた名所旧跡に眺め入り、斜め向かいの席で試験勉強らしきセーラー服の高校生を眺めた。膝に載せた鞄の上にテキストみたいなのを広げてる彼女、大きな目がだんだん細くなって、まぶたがふさがって。こくんこくん眠りこけては、はっと起きる姿がかいらしくて。

▲その高校生が主人公の物語を夢想したり。そういえば~と、かつてここのセーラー服着てた若い友人を思いだして、メール。あれこれ思うてることをエア"word"したり。車内が空いているのをええことに、紙袋に手をつっこんで、買ってきたあんぱんを小さくちぎって食べたりね(旨かった!)。ああひとり電車の時間はたのしくてすき。

▲やっとやっとホームに着くと、母が玄関のところで到着の時間も伝えてなかったのに、待っててくれた。エレベーターで乗り合わせた入居者の方に「娘さん?」と聞かれて「この子、四番目の娘ですねん。ほんでね・・(以下略)」と応えてる(苦笑)
居室に行って休憩したあと、とりあえず前から頼まれていた部屋の片付け~服や空き箱など「いらんもん」の整理をする。

▲ひとつひとつ「これどうする?」と聞いてゆくんだけど、「捨ててよし」と即答するものもあるが、たいてい「その服はな、◯◯で買うてん」とか「わたしが編んでん」とか、ひとつひとつに思い出話が付いてきて。「けど、シミもほころびもあるし、もうくたびれてるし(捨てても)ええやろ?」「な、もうええやろ?」と重ねて言うと、やっと「うん。ほんならもう”お役御免”さしたろか~」と笑いながら返ってくる。なんや母の思い出まで捨てるみたいで切ない。けど、そんなん言うてたらいっこうに片付かないので心を鬼にして続行。

▲なんせわたしが出したレターパックから、紙袋、服や雑貨を送ったときのダンボール箱も、包装紙も紐も全部残してあって。ホームに入居してから半年もたってないのに、すでにモノがいっぱいたまっており。どこで暮らしてもモノを捨てられない世代やなとしみじみ。
途中ふたりとも、めんどうくさくなって「やめとこか」と言い合うも、すでに部屋の中がエライことになっており、なんとかカタつけて強制終了(苦笑)。

▲で、ようやっとお茶の時間だ。「おいしいなあ」とシュウクリームを丸かじり(!)しながら昨日の話をすると、母は父の命日を失念してたようで「忘れてしもてたこと」にしょげかえるのであった。ええやん、ええやん。もう31年も経ったんやから。たまには忘れることもあるよね。

▲「その日」は土曜日だった。わたしはパートの仕事が休みで、部屋の掃除をしていた。一年前の夏から父はヨメイセンコクも受けていてみな覚悟はできていたはずだけど、9月はけっこう快調やったから。もしかしたら、もうちょっと、いや、もっと長く居てくれるんやないか~と、思ってた。たぶんみんなもそう思ってたはずだ。

▲慌てて上の子の保育園の迎えを義母にたのんで、駅まで急いだけど「その日」も近鉄吉野行きが出るまで、けっこう時間があって。病室に着いたら、次々かけつけたみんなに囲まれて父はすでに永い眠りについていた。
「ほんまにもぉ。いっつもおまえはぐずぐずしてねんから・・」と今にも父がベッドから起き上がってきて、怒られそうな気がした。「今日も着いてたで~」と母が指差した枕の横には、そのころわたしが毎日父に宛てて出してたハガキがあった。

▲母は父の入院中、仕事を終えて夜おそく病室に通ったころのことをぽつぽつ話し始める。深夜になって「ほな今日はもう帰りますわ」と言うと「ごくろうさん」と言いながら、おとうさんさみしそうやった、と。「ずっと(病室に)おったら、よかってんけど、次の日も仕事あるし、おとうさんが入院中は、店まもるのがわたしの役目やと思ってたから」と泣きべそをかいて。「その日」はとおくちかく、わたしたちの中に在る。

▲小さ目のシュウクリームをえらんだのに、94歳の母には多かったようで。「残ったん、あんた食べる?」と聞かれたけど。以前はこんなの2個くらい軽かったわたしも、いまは無理。そうそう、むかし母がよくカスタードクリームを拵えてくれて、パンにつけて食べたっけ。母子で口の端に粉砂糖つけながら、父もすきだったシュウクリーム談義。
「ぜったい忘れんといてな。傷んだん食べたらあかんで」と繰り返して半分冷蔵庫にいれる。
帰る時間になって、呼んだタクシーが来て「ほんならまたな」と握手して車に乗り込む。車窓から、ずっと手ふってる母がちいさく見えた。


*追記
その1)
帰宅後「残り」が気になって、母に「おなか壊したらあかんし、早う食べるか捨てるかしてや」と言うたら、こんな返事がかえってきた。
「あははは~あんた帰ってからちょっとして、もう食べましたがな」

その2)
きょうは選挙投票日です。この選挙そのものに、納得いかないし思うとこいっぱいあるけど、とにかく投票はせねば。わたしは期日前に。(期日前の投票所のほうが便利いいし助かりますが、入場券がない場合の本人確認が簡単すぎるのが気になるところ)
先日いただいたコメント返信にも書きましたが再度。
何かが変わってゆくのはそして何かが変わるのって、ほんまに気の遠くなるほど時間かかるわけで。教育や地道な運動の継続、継続の上にようやく。
当たり前のように思ってしまってる選挙権だって、日本の女性が参政権を得てから、まだ72年なんですものね。
あらためて魯迅の有名なこのことば(小説『故郷』の文末)をかみしめながら。「知ること」「考えること」「怒ること」を忘れたらあかんとあらためて思いながら。

《希望は本来有というものでもなく、無というものでもない。これこそ地上の道のように、初めから道があるのではないが、歩く人が多くなると初めて道が出来る。》(青空文庫→

by bacuminnote | 2017-10-22 10:42 | yoshino