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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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ずきずきとしみじみと。

▲朝からぽかぽか陽気で、朝一番に予約してあった隣町の医院まで歩いて行く。片道30分弱、ちょうどいい感じの散歩コースだ。
いつから集まってはるのか、公園はゲートボーラー!の若々しく元気いっぱいの声が響いてる。日溜まりで立ち話のママたちは、こどもを幼稚園に送ってったあとだろか?傍らベビーカーのあかちゃんのまぶしそうな目も、ちいさなあくびもかわいくて。
団地のベランダのあちこちに干してある色とりどりの布団や洗濯物。外にほっぽったまんまの錆びた三輪車。駐車場・・青いバケツの水で洗車してるおっちゃんや、見上げた空のまっすぐ伸びる飛行機雲も。
こんなにも晴れた日は、何もかもがきもちよくて、それにいとおしい。

▲お天気がいいと、わたしは「にわか働き者」に。
で、年に一回の検診が終わり、家に帰ってからも古新聞を片付け、布団カバーや綿毛布を洗濯し、買い物に行って、高野豆腐を炊いて、それから、それから・・とはりきってたんだけど。
午後になって再び用事で出かけたとき、考え事しながら歩いてたら、ちょっとした段差につまづいて転倒した。

▲本人はいつものように、おっと~と「つまづく」だけで収まるつもりやったのに。あろうことか、狭い歩道をふさぐように大の字になってこけてしもた。
映画みたいに”Are you ok?”と抱き起こしてくれる おとこまえが登場するはずもなく。何事もなかったかのように、のっそり一人起きあがって、買い忘れのゴボウを近くの店に買いに行った(←ひさしぶりに炊き込みご飯の予定だった)幸い大した怪我はなかったけれど、とっさについた両手首が、肩や背中、それに足首も痛くて。ずきずきと しみじみと年を感じる夕暮れ時だ。ふうう。

▲今月は手術した友人ふたりを見舞った。
さいわい二人とも無事に手術もすみ、術後の経過もすこぶる良好で「患者さん」だということも忘れるくらいに元気な笑顔にあえた。どちらの病院も新しくきれいで、病室も広く明るくて。その窓からみえる景色もこころ和むもので、ほっとして帰途についたのだった。

▲わたしが初めて入院したのは今から30年近く前の夏のこと。
某市民病院ではまだぎゅうぎゅうの8人部屋なんて大部屋もあった頃だ。イケズなおねえさんや名主のように仕切るおばちゃんがいたりして、ナンもわかってへん24才の新妻!は文字通り泣いたり笑うたりの入院生活だった。

▲わたしの右隣のベッドのSさんは長いこと入退院を繰り返してる方で、無類のお酒好きだった。消灯のあとカーテン越しに「わたしにはわかる。あんたもいける口やろ。ほれ、ちょっと呑み」とウイスキーのポケット瓶を回して来はるのだった。どきどきしながら「そ、それは病気が治ってからにしますわ~」と言うと「これから長い闘病生活になるんやし、そんなん言うてたら息詰まるで。まあ、遠慮せんと、一杯いきぃな」と、すごいことばが返ってくるのだった。

▲彼女は外泊許可がおりると、歩けんようになるほどのんで、救急車で戻って来はる。看護師さんたちにも「また、あの人か~」と呆れられてたけど。
腎臓の検査入院で、けっこうきびしい減塩食だったわたしが食事記録をつけていると「わたしもな、はじめはそうやって、何を食べたらあかんで何がええか、帳面につけてやっててんけどなあ・・・続かんかってん。けど、あんたはしっかり治しや~」とやさしい。ま、そういう時にはお酒を勧めたことも忘れてはるんやけどね(苦笑)
そうそう「醤油はな、上からかけるとちょっとですむけど、煮物にしたらけっこう使うし、減塩にならんから気ぃつけなあかんで」と教えてくれたりもした。

▲ドアの向こうに相方が面会に来るのがわかると「ほら、ほら、今日も来はったで~」と左隣のおばあちゃんと二人すーっと部屋を出て行ったり、カーテンをそっと閉めたりしてくれるんよね。
左隣のおばあちゃんは、もうよくなってるのに息子さんに「帰ってくるな」と言われた、と「まだしんどい」と言いながら長居してる、とSさんが言うてはった。聞けば、同室のみなそれぞれに「事情」があり。ひとは病気だけとちがって何か痛いとこ抱えてるんやなあ、と世間知らずの自分をはじた。

▲夜になると隣の男性の病室では、毎日のように「だれそれのいびきがうるさい」と派手なけんかが始まったり、相方に電話しようと10円玉いっぱい握って公衆電話のところに行くのに、やっぱり硬貨じゃらじゃらいわせて、チョー長電話の骨折のおにいさんがいてやきもきしたり。洗濯機のことで同室のおねえさんにエライ怒られて泣いてしもたこともあったっけ。

▲「長い闘病生活」とSさんに言われて、そんな~まだケッコンしたばかりやのに、と泣きそうになってたけど、わたしの入院は2週間で終わり、ありがたいことに減塩食もこの期間だけで済んだ。
ほんまにいろんなことがあったけど、なかなかの時間やったなぁとおもう。
そして、今でも酒屋でポケット瓶をみつけると Sさんのことや、あの大部屋での時間を思い出すのだった。

▲そういえば。
「闘病」について、杉浦日向子さんのこんな一文がある。
《江戸のころには「闘病」ということばはありませんでした。かわりに「平癒」(へいゆ)といいました。
病とは、外からやって来るものばかりでなく、もともと体に同居していた、ちいさな身内だったのかもしれません。それが突然、訪問客として、「頼もう」と声を荒げた瞬間が「発病」です。
なにか、メッセージがあるから、姿を現したのです。招かれざる客ではあっても、まず用件を丁寧に聞いて、かれらがなにものなのか、自分のどこがいけなかったのかを知り、なるべく、すみやかに、おひきとりねがいたい。
これが「平癒」の意味するところなんですね。好きなことばです》(『杉浦日向子の食・道・楽』"不健康は健康のもと"より抜粋)
by bacuminnote | 2008-02-21 23:45 | 本をよむ