『Three Days of Rain』
2008年 02月 13日
義母のところに行こうとバスを待つ間、冷気が足許からじんじんと せり上がってくるようでふるえる。そんな中、すぐ隣にあるケーキ屋さんの店頭では「バレンタインチョコレート」の売り込みをしていて。
若い女の子が着ているピンクのワンピースは見るからに制服用の薄い化繊みたいで・・・使い捨てカイロなかったかなあ、と思わず保護者的視線のおばちゃんがバッグの中を手探りしてたら、バスが来た。
▲あいにくカイロはなかったんだけど(あ、もしあったとしても、差し出す勇気があったかどうかはわからない)
そういえば、とクリスマスの日にも 同じような感じでここでバスを待っていたのだった。
中年女性が二人、サンタクロースの帽子と上着姿で足踏みしながら「クリスマスケーキはいかがですか?」と声をはりあげて。その店の喫茶室から出て来た常連客らしいおじいちゃんが「あんたらも大変やなあ」と声をかけてはったっけ。
この頃は25日よりイヴの方が盛り上がるみたいで、その日のケーキも売れ行きが芳しくなさそうで。たいていの呼び込みに負けないわたしも、寒さゆえの「足踏み」っていうのに弱くて、買うつもりのなかったケーキを買ってしまったのだった。
▲そんなことを思ってたら、車内でぷーんとたこやきのにおい。暖房のよくきいたバスの中、今しがた買ってきた「それ」のにおいが、もわーんとしており一人赤面する。6個入りはお義母さんに、10個入りはわたし用(笑)の「それ」である。
ホームに着いたのはまだ11時すぎだったけど「久しぶりやなあ。たこやき。ほなら、もう食べまひょか」と義母が言い、レンジで温めて「おいしい、おいしい」と食べて。ひとしきり、昔話やおいしいもんの話をしてたら、あっという間に帰りのバスの時間となった。
▲義母の部屋を出て、エレベーターの所に行くのに空き部屋の前をとおる。
エレベーターで一緒になると、決まって娘さんのことを話してはった方の部屋で・・・ここに来るといろんなことを思う。 同じホームの方と話しながらの帰りのバスから降りる頃には雨はあがっていた。件のケーキ屋さんの前にはまだ「バレンタインには・・・」と声が聞こえていて。けど、振り返ったら、みな上着を羽織ってはったので他人事ながらほっとする。
▲チョコレートと雨といえば、この前観た『Rain』という映画を思い出lす。(DVD/日本では劇場未公開。監督・脚本 マイケル・メレディス 製作総指揮 ヴィム・ヴェンダース)ロシアの劇作家アントン・チェーホフの短編の幾つかが元になった作品だそうだ。
舞台は夜の街やビルがゴーストタウンのようにみえるクリーブランド。原題の『Three Days of Rain』のとおり、雨が降り続く三日間の物語はWOLH(ラジオのジャズ専門局)のジャズとDJの声が流れる中で始まる(←かっこいいです)。
▲最愛の息子を亡くしたばかりのタクシー運転手、妻に逃げられたタイル職人、鉄道会社で働く障碍をもった青年、ヘロイン常習者の若い女の子。そして何不自由なく美しい妻と居候のその妹と暮らす中年男性、アルコールと息子に依存する老人。
この6人とその周囲の人たちの三日間のエピソードが折り重なってゆく。
▲中でも心に残っているのが中年カップルの話だった。
何不自由ないこの夫婦、予約していたレストランでディナーを食べたあと 駐車場まで歩いていると ひとりのホームレスの男性に「何か食べるものを恵んでほしい」と呼びかけられる。
ちょうど家で待つ妻の妹に、とテイクアウトしたものがあったので「少しだけなら彼にあげられる」・・と提案する夫。一方妻は「これは妹に持って行くものだから」と受け付けない。「少しだけなんだから(いいじゃないか)」と夫はもう一度言うんだけど、妻の方は頑なに拒むんよね。
▲「じゃあ」と夫はお金を男性に渡そうとすると「お金がほしいんじゃない。食べ物がほしいだけ」という返事。「だったら、せめてデザート(チョコレートムース)でも」と夫は再び妻に持ちかけるんだけど、これまたあえなく却下されるのだった。どんどん険悪な空気になってゆく夫婦にいたたまれなくなった男性の方が「旦那、もういいですから」と申し訳なさそうに引き下がる。
▲むっとする夫はそれでも車の中で、何もなかったかのようにふるまおうとして、妻もそれに笑って応えて。
一見落ち着いたかのようにみえたんだけど、それでも、やっぱりこのときのことが夫は忘れられない。喉にささった小骨のように、いつまでもちくちくとひっかかる。雨の中のホームレスに何もしてあげられなかった自分を悔いて。
▲だからといって、彼がそれまでもホームレスの人に何かしてきたか、というと(映画で見る限り)そうではないと思う。もしかしたら、妻と同じように「たった一人だけの人に食事を与えても何にもならない」と思って来たのかもしれないし、いや、それすらも思わず「無関心」で通り過ぎてきたかもしれない。けど、この雨の日のできごとがきっかけで、彼にはホームレスの人が「見える」ようになったのだろう。
そして、このことがきっかけで夫婦はうまくいかなくなるのだった。
▲「一生をかけて、地位も金も手に入れた、だけど、胸を張れない人生なんて~」と夫は呟く。
フウフって、二人おなじ道をおなじように歩いているつもりでも、歩幅もちがうし、目線も、見ているものも微妙にちがっており。でも、だからこそ、お互いに何を見たか、見てどう思ったかを相棒と話すのが 共に暮らす愉しみだとおもうんだけど。
▲さて、この二人はどうなるのか?
この話だけでなく、他の5編もみな結論めいたものはないんだけど。三日間降り続いた雨はあがり、それぞれの登場人物にもあたらしい日が始まる。ラストの雲の切れ間からすーっと光が差し込むところがきれい。そして音楽は最初から最後までcool!
そう言えば『人生は、時々晴れ』って映画もあったっけ。いつもじゃなく、時々しか晴れない空。だから、ジンセイは深くおもしろいのかもしれない。
*追記*
チョコレートはわたしの数多い?すきなもののひとつですが、
カカオ豆農場で働く(働かされる)こどもたちのことを知って、胸がいたみます。
児童労働についてはここ(バレンタインデー・アクション2008 / アムネスティ)にも書いてあります。