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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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しずかに読んだその後に。

▲ 秋をたのしむ間もなく冷たい風がふきぬけ始めて。しばらくは薄物に薄物かさねてかさねて凌いでたけど、とうとう一昨日セーターをひっぱりだしてきた。寝るときにはおこたまで登場。まだ、扇風機もしまってないのにね。
それにしても、なんだか年々季節のめりはりがなくなってる気がする。そうして、子どもの頃みたアメリカのホームドラマみたいに、街をゆけば半袖とコート姿がいっしょに歩いてる。で、コートの下は半袖やったりして。寒いのは外歩いてるときだけ。ビルや家の中ではシャツ一枚の暖かさ。たしかに天候も変だけど。ひとがしてることもおかしいなあ。

▲ この前ちょっと調べたいことあって地図みて気がついたこと。
わたしらがパン屋を始めた滋賀県・愛知川町も、その後引っ越した長野県・開田村も、どちらもいまはその名前が地図にはないんよね。開田村は木曽町として合併され、木曽町開田高原に。愛知川(えちがわ)は秦荘町(はたしょう)と合併して愛荘町に名を変えた。

▲ とりわけ愛知川周辺のまち~パン焼きのあと親子で何度も行ったプールのあった湖東町も、毎週通った図書館の八日市も、一時親子で夢中になったピアノ教室の五個荘町(ごかしょう)も、友人の家がある能登川町もみな東近江市にと変わってしまっており。
なじみ深いあの場所もこの場所も、であった人も風景も、こころと体にしっかり焼き付いてるのに、地図をみると違う名前が載っている。なんだかそれは知らない町のようでよそよそしくて。なつかしい「あの」町だとは思えなくて、さみしい。

▲ 土地の名前には、その名に決まるまでそれぞれに長い物語と歴史があって。それが行政の都合でかんたんに消えてゆくのはなんとも残念でならない。そんなことを思ってたら、ずいぶん前に図書館にリクエストしてた『鳥と雲と薬草袋』(梨木香歩著・新潮社)というふしぎなタイトルの本が届いた。自分で予約しておいてなんだけど時間がたちすぎて、どんな本だったのかも忘れてしまっており・・(苦笑)
でも、開けてびっくり。まさに地名についてのエッセイ集だった。

▲ 著者曰くこの「葉扁集」は(←「掌篇より はかなげなこの「葉篇」という言葉はある方の造語」とある)「文字通り葉っぱが降り積むように、これまでの生涯で縁のあった土地の名を重ねていく」西日本新聞での連載をまとめたものらしい。「まなざしからついた地名」「文字に倚り掛からない地名」「消えた地名」「正月らしい地名」「新しく生まれた地名」「温かな地名」「峠についた地名」「岬についた地名」「谷戸と迫と熊」「晴々とする”バル”」「いくつもの峠を越えて行く」「島のもつ名前」・・と目次もたのしくて、地名のひとつひとつ、その場所に込められた思いや物語がうかんでくるようで、わくわくする。

▲ ふしぎなタイトルのわけは、梨木さんのお家の窓から見える「鳥と雲(気象)」、梨木さんが旅の鞄に入れておくごちゃごちゃ袋~小さな島で貰ったハーブのブーケや旅の最中の色々なメモも入っている「薬草袋」から。あちこちに旅する鳥たちが運んでくれるもの、ちいさな袋にいっぱいの思いがハーブの香りといっしょにこぼれ落ちてくるようだ。
p170しかない本だから、その気になれば一気に読み終えられそうだけど、「著者がお願いするのもおかしいことだが、薄い本ではあるけれども、連載時と同じように一日一篇、と読んでくだされば」と「あとがき」にあって、図書館の帰り道から始まってすでに数篇読んでしまったわたしは首をすくめる。

▲ そうそう「新しく生まれた地名」には、なんと件の東近江市も登場していて、思わず「おお」と声がでた。
梨木さんは『あかねさす 紫野行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る』(万葉集/額田王 ぬかたのおおきみ)を挙げ、この歌の舞台となる蒲生野(がもうの)を語る。

その名称は二〇〇五年まで、蒲生郡蒲生町という地名で残っていた。車で走っていて、蒲生町、という表示版を見るたびに、この万葉の古歌が浮かんできて、思わず口ずさんだりしたものだ。
その年、永源寺町、五個荘町など、由緒ある地名の一市四町を合併、さらに二〇〇六年には件の蒲生郡蒲生町、神崎郡能登川町を編入して、現在の東近江市になった。車を運転する人も、地図を観るひとも、ここがあの蒲生野のあった場所、とは、もう容易に結びつかないだろう。
」(p55)

▲ 最後の一篇は「ショルタ島」~「今まで旅した中で一番素朴な名を最後に取り上げたい」として、これだけが外国の地名を挙げている。アドリア海に浮ぶ島、クロアチアのショルタ島(さいしょに書いた梨木さんの「薬草袋」に入ってるハーブのブーケも、もとはこの島のおばあさんからもらったものだとか)にある港の上の村の名まえが日本語で言うと「上の方」というらしい。

古代、それで十分用が足りたのだろう。以来何千年も、その村は「上の方」と呼ばれている。
それが地名というものの本来の形なのだろう。その場所を呼ぶ必要があるとき、誰もが分かる形でそこを表す。それに文化的な修飾がついたり、中央集権的な記号性の高いものへ取って代わったりする。(中略)

「上の方」の村には咲き匂う野生のハーブの花を求めて養蜂業者も住み着いた。ここの野生のローズマリーの花の蜜は絶品だ。「上の方」という名のイメージは、そういう香り高いものになりつつある。地名も人名も、およそ名というものはそのように、長い年月をかけ本来の意味から自由に成長していくものなのだろう。
」(p135)

▲「上(うえ)の方」で思い出した。ジッカのあたりでは場所をしめすのに「上(かみ)」「下(しも)」をよくつかうんよね。ショルタ島のようにそれが地名としてあるのではないんだけど、吉野川に沿った町並みは 上(かみ)の方が奥で下(しも)に行くと街が開けてくる。街まで買い物に出るのに「ちょっと下に行ってくるわ」という広い範囲から、近所の親戚の家のことを「上の家」「下の家」と言ったりするのだった。

▲ああ、あちこちの地名のことおもってたら、どっかに行きたくなったなあ。遠くじゃなくてもいい。
しずかに読んだその後は、ふらりとどこかに出かけて行きたくなる本だ。



*追記
鳥といえば、これ。16の頃出会って、もうどれくらいくりかえし聴いてきたことか。
Birds-Neil young

最近は、このうたも。
Birdsong-Powerdove

こういうのもすき。
birds sing for their lives-nine horses
by bacuminnote | 2013-10-22 00:13 | 音楽