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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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からだの真ん中をゆっくり通る。

▲今朝も時計のアラームが鳴る前に目が覚めてしまった。これが二度寝するほど早い時間でもない中途半端な時間やから。たいていは「ええい、このまま起きてしまおう~と」いうことになる。
宵っ張りのつれあいを起こさないように~しずかに着替え、そぉ~っと退室している(つもり)。が、こういうときに限って本や携帯を落としたり、なんかに躓いたり・・・。

▲お湯を沸かすあいだに昨晩の湯のみやグラスを洗って、珈琲の前にまずはお白湯を一杯。ねぼけたからだの真ん中をお湯がゆっくり通ってく。ああ、そしてそれはほんまに旨い。早う目が覚めてしまうのも、しんそこ、お白湯の美味しさがわかるようになったのも、歳のせい(おかげ)やろか。

▲そうこうしてるうちにラジオの語学講座が始まる。次々と外国語講座が放送されるのを今月から「ただ聞いてる」だけなんだけど。フランス語、イタリア語、韓国語に中国語、英語、と聞きながら珈琲を淹れる。すぐ隣の国のことばも遠い国のことばも、覚えよう!と力みさえしなければ、ふしぎでとてもおもしろい(いや、でも。せっかくやから覚えたい!が本音・・)。飛行機でも船でも、自由自在どっか遠くに行ってペラペラと外国語をしゃべってる自分を夢想してると、思いの外早くにつれあいが起きて来て。「なんや傍でごそごそしてるし、目がさめてしもた」ということやそうで。

▲そのむかし、夫の両親がホームに入居後、朝の早い義母が身支度したり、あれこれ動く音に「うるそぉて寝てられへんがな」と義父がこぼすと「わたしは昔から早起きです!」と義母がすかさず強気の返答してはって・・・(笑)。要するに、みんな歳をとると、ほぼもれなく「ゆっくり寝てられん」ようになって。昼間の欠伸や居眠りとなるんよね・・・ふぁああ~。

▲さて、今日も買い物に行く途中のマンションに引っ越しの大きなトラックが停まっていた。毎年この季節になると信州から大阪の引っ越しのこと書いてる気ぃするけど、もう14年もたってしもて(それやのに、依然積んだまま未開封のままのダンボール箱が物置にあって。ため息!)。
わたしは生まれてから今までに学生下宿を入れると、9軒の家やアパートに暮らして来て。が、思えばその中に「新築物件」はひとつもなくて、新しいところでも築10余年~あとはみな古い家だった。

▲つまり、わたし(ら)の前に知ってる人や知らない人たちが住んではって、その悲喜こもごもの生活を間近に見てきた部屋や家に暮らしてきたわけで。
そうそう。反対に引っ越し後の住人のことを以前聞いたこともあって。それは友人が呑み屋の隣席で酔っ払ったおじいさんを家まで送って行ったら、なんとわたし(ら)が新婚(死語!?)当時住んでいた「文化住宅」の同室でびっくりした~というエピソード。これは思い出すたびにちょっと泣きそうになる。

▲家出して最初は学生下宿みたいに本箱と机だけでスタートした「文化住宅」での生活が、すこしづつ家具や荷物が増え、そのうち赤ちゃんも登場して。狭い部屋をハイハイする息子や、散らかるおもちゃや絵本。それに若いわたしらが映画のいち場面のように浮かんでくる。
今時分やと「文化住宅」のすぐ裏の、淀川の土手は菜の花で黄色一色に染まってた。6畳と4畳半と台所~その間取りも、建て付けのわるい襖の癖もよくよく知ってるあの家で、おじいさん一人の住まいはどんな風だったのかなあ~と想像する。

▲同じ家でも住む人でふんいきはずいぶんと変わるもんね。
信州に引っ越したとき、それまで空き家を管理してはった大家さんのご家族が見えて、畳の部屋に大きなテーブルや椅子、ピアノ・・・と、部屋の使い方も家具も様変わりしたことにびっくりしはって。「おお~若い人の家になって・・・。自分の家でないようだねえ」と言うたすぐ後に「あはは~でもまあ実際、もう自分の家じゃないんだけどさぁ」と傍らのおつれあいをみて笑いながら、でもちょっと寂しそうにしてはったことを思い出す。

▲転勤で引っ越すことになり自分ちを誰かに貸してるという方から、丹精こめた庭が新住人になって、草まみれでカッカする~というような話を聞くたびに(ちょっと耳が痛いんだけど)たしかに、一人でも、家族でも、何年かの間すごした家には皆それぞれに思い出も思い入れもあるから。持ち家であろうが借家であろうが、つぎの住人が家を大事にしてくれるとうれしいし、粗末にされてる気がするとがっかりするんよね。

▲家といえば、この間梨木香歩さんのエッセイを読んだ。(毎日新聞日曜版の連載『炉辺の風おと』)第一回は梨木氏が訳あって転地することになり家を探すところから始まる。信州は八ヶ岳の中腹の別荘地で、あるとき管理事務所の方が一軒感じのいい山小屋に案内してくれる。そこは《気持ちのいい簡素さ。山小屋文化というものがあるとすれば、それをどこか正しく継承している空気》で。

▲山荘の棚に残された写真は・・外国の山を背に、年配の男性の笑顔で。氏は写真(この家の持ち主だった方)の人柄や(その方がたぶん亡くなられて)山荘を手放すことにしたのであろうご遺族に思いを馳せる。

▲文中に出てくるカラマツはかつてわたしらの「家」の重要な背景でもあり。なんでもないことばのひとつひとつも、身近に感じてじんじんしながら第二回のエッセイを読んだ。
ついにその家を買うことになって事務的なやり取りが一段落した場で、梨木さんより少し若いくらいの男性のKさんがふっと「なぜあの家になさったのですか」と問う。梨木さんは「幸せな思い出がいっぱい詰まっている気配があったので」と応えるんだけど。

▲そう。家には、部屋には、まえに住んでた人らの気配が、例えきれいに掃除してあっても、「消毒済み」の薄紙が巻いてあっても(苦笑)どこか微かに残ってて~それが気色悪いと、いう人もいてはるけど、やがて次の住人の色に上書きされて、気配は薄くなり、知らんまに消えてゆくんよね。
Kさんは(思ったとおり)写真の男性の息子さんだった。梨木さんが「ここ」と思ったのは、別荘にありがちな「これ見よがしなところのないのない、素朴で、穏やかな趣味の良さ」で。Kさん曰く「子どもの頃からの、楽しい思い出がいっぱいある」山荘周辺の空気はわたしも近い地で暮らして来たから。ほんまに、もうすぐ目の前に、浮かぶようで。胸がいっぱいになった。

▲梨木さんはそのご家族が山荘ですごしたころの写真が見たい、とKさんに告げるのだった。この申し出は、正直なところちょっと意外な気がしたのだけれど、たぶんKさんという人はそういうことを話せる「気配」のある方だったのだろうなと思う。じっさい梨木さんも《契約終了後の、それは無視されてもおかしくない、少し厚かましいお願いだったのだ。けれど私はあの家に若いひとたちの歓声が溢れていた頃の、辺りの様子が知りたいと願ったのだった。一つの建物の、青春時代。》と書いてはる。

▲そして、その後Kさんからメールで写真が送られてきたそうで。他人ごとながら、梨木さんと この家、梨木さんとKさんとの繋がりに胸があつくなる。何かと、だれかと「であう」というのはこういうことなんやな、と自分の身の上にもこれまで何回かあった、そのどきどきするような(ある種コイにも似たようなひきあう)瞬間をおもう。

▲1970年前後の日本の山の休日のスナップ。若々しいお母さんに、半ズボンの元気な男の子たち。思い思いの場所にハンモックを吊るし(後日このハンモックがなんと山小屋の戸棚から出てきたらしい!)高原の夏をすごす一家。
そうそう、このエピソードにはものすごいオチがあって。いつか観た映画みたいやなあと胸おどらせつつ。

《半ズボンのK少年兄弟は、その後近くの別荘の少女と知り合い、遊び友だちになる。十代の後半に、他のキャンプ場で偶然再会、少年は高原の恋を実らせた。今の奥様だそうである。》



*追記
その1)
この連載は今週(4・15)三回目で、今回は梨木さんらしく!鳥の話。背景が馴染みの信州ということもあって、たのしみな連載です。ウチはいま新聞をとっていないのですが、ご近所なかよしさんがいつも新聞を郵便受けに入れておいてくれます(感謝!)


その2)
いま読んでる本は、その名も『耄碌寸前』(森於菟著 みすず書房2010年刊)《私は自分でも自分が耄碌しかかっていることがよくわかる。記憶力はとみにおとろえ、人名を忘れるどころか老人の特権とされる叡智ですらもあやしいものである……》と最初からずきんときます。著者森於菟(もり・おと)は、かの森鴎外の長男さん。


その3)
そして、きょうはこれを聴きながら。
Tom Waits - Take Me Home

by bacuminnote | 2018-04-18 21:07 | 本をよむ