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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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あとからやって来た住人で。

▲ほんのついこの前まで、ストーブをつけてたのに(まだ片付けてない!)なんと今日は30℃まで上がったそうで。庭に出たら草の海の中どくだみの白十字が光る。くわえて蚊も、ごきぶりも登場し活動を始めて。わたしの花粉症もそろそろ来て。ああ、季節はめぐる~ていうか、キミらなんも慌てんでも まだ5月やで~と呼びかけたいきもち。

▲虫、というたらちょうど『虫ぎらいはなおるかな?』(文と絵 金井真紀 理論社刊)という本を読んだところ。「金井本」(と、わたしは呼んでる)は以前ここで『酒場 學校』や『パリのすてきなおじさん』の紹介をしたことがあるけど、金井真紀さんって「生物」ぜんぶウエルカムなイメージを勝手に抱いていたから、虫が苦手というのはちょっと意外だった。
ご自身も《「多様性をおもしろがる人になりたい」なんて言いながら・・》と、そのことを気にしてはるようで。また「虫が大好き」なんて人に会うと、羨ましいなあ~と思うらしく。

▲対象は全然ちがうけど、この《「ほんとうは好きになりたいのに、きらい」というややこしい状態》や気持ちは、この前書いたわたしにとってのお漬物に通じるようで、著者の苦悩!がなんかわかる気がする。
でも虫に関していえば田舎育ちのわたしは、ケッコン後生まれ育ったとこよりもっと田舎で暮らしたりもして、虫は(まちに比べたら)いつも近くにいて。とくべつ好きってことはないけど、苦手ということもない存在なわけで。いや、じつはパン屋時代大いに悩まされたこともあったんだけど、それはまたあとで書くとして。

▲この本は、そんな金井さんが《虫好きと虫ぎらいのあいだに横たわる深い河に船を浮かべて、旅に出る》話。そして旅のナビゲーターは7人の昆虫の達人なんだけど、この達人たちもそのお話もとてもたのしくて興味深い。 虫好きと虫ぎらいの分岐点を調査する教育学者、昆虫をモチーフにする芸術家、「こわい」の心理を分析する認知科学者などなど。

▲この七人衆~初めて知る方たちの中一人だけ「聞いたことある」お名前があって。それは名ラジオ番組「子ども科学電話相談」の昆虫のセンセ、久留飛克明(くるび・かつあき)氏で。
本文中にもその「相談」が引かれてる。ある小学生の女の子の質問「なんで動物の病院はあるのに、虫には病院がないんですか?」にたいするセンセの答えはこうだ。《なんでかいうたら、虫はすぐに死んでしまうからやねん》《虫は長生きできんのや。それをかわいそうって思うかもしれんけど、にんげんとは生き方が違うんやなぁ》(p27)

▲いやあ、深い。おもしろい。
そういえば以前ネットでこのセンセのインタビュー記事を読んだことがある。(文春オンライン編集部「NHK夏休み子ども科学電話相談」昆虫担当・久留飛先生に聞いてみた) 件の子ども電話相談で

《「カタツムリってなんでのろいんですか?」って質問をもらいましたけど、「それはあなたはのろいと思ってるかもしらんけど、カタツムリはそんなん思ってるんかな」っていう。
同じ知識でも、そこにどんな意味付けをするかは立場によって変わりますよね。私はこう思うし、あなたはそう思うし、昆虫はどう思うだろうって。勝手に「いい」とか「悪い」とか、「汚い」とか「きれい」とか、向こう側からしたら「そんなのあんたに言われたないわ」と思うんだろうなと。》
と、答えてはるのであった。サイコー。

▲金井さんはこのセンセをたずねて大阪に。
センセは大学(農学部)在学中には公衆衛生研究所でゴキブリやらハエや蚊の飼育!のバイトを経て、その後保健所に就職。いわゆる害虫の調査や駆除や、ときには「この虫は駆除せんでもだいじょうぶ」と言うたりしてはったそうで。(なんだか「らしい」気がする)みんなから嫌われるゴキブリだけど、センセ曰く「殺虫剤のほうがよっぽど体に悪いんちゃうか」←同感!

▲50歳のときセンセは大阪は箕面昆虫館の館長に就任する。そのとき「子どもたちを虫ぎらいにしない」ことが館長の目的だったそうな。理科で初めて「昆虫」が出てくる小学3年生までには、虫ぎらいにならずに育ってほしい、と。
つまりそれは《虫のことをちゃんと習ってから、好きになったりきらいになったりすればいい》ということ。
金井さんは言う。《たしかに知識を付ける前にきらいになるのは「しんどい」ことだ。これはあらゆる他者とのつきあいに通じる心理である》(p36 )

▲本はみるみるうちに付箋だらけになった。いつも金井本は添えられた絵もええ感じで、文章も読みやすくて(たぶん、ものすごい「推敲のひと」なのでは、と想像しています)すいすい「読み」が進むんだけど。これが、ほいほい先には行けなくて、いや、行ったとしても「やっぱり」と戻ってくる、みたいな。

▲それは道中「種」がところどころに転がってたり埋められたりしてるからで。あはは~と笑ったあとで、ふっと立ち止まり、しゃがみこんで考えたり。そんでまた、そのことについて誰かと話したくなったりして。今回もp158のその気になれば、あっという間に読み終える厚さながら、行きつ戻りつ、途中つれあいに「害虫駆除って、近代に生まれた考え方やねんて~」と知ったかぶりで話してみたりね。

▲で、結局7人の達人と会って話して、金井さんの「虫ぎらい」はなおったんだろか?本を書いてる途中インドに行った金井さん、チャイにどっとたかってくるハエが、けっこう平気だったりする。それなのに帰国するとなんかちがう。なぜなんだろう。「虫ぎらいはなおるかな?」の旅はまだまだ続いてるようで。金井さんにはまた後編を期待したいです。

▲それにしても。
「すき」は けっこうわかりやすいけど、「きらい」ってどういうことなんだろうと改めて考えている。
《「きらい」がもつ魔力とか暴力性にちついてもちゃんと考えようと思う。自分と異なるものを、安易に「きらい」「こわい」「気持ち悪い」と言って排除するのはとても危ういことだ》(p175)と。そして金井さんはこう結ぶ。
《読んでくださったおひとりおひとりが、それぞれの「きらい」と上手につきあえるようになりますように》(p158)
ええ読書時間でした。ちいさいひとからおおきいひとまで。おすすめです。


*長い追記
その1)
文中書いたパン屋時代に「大いに悩まされた」のはじつはカメムシ。滋賀から信州に越してしばらくした頃、日々増え続けるその存在。それはほんまにもう生易しい数ではなく。
古い家で隙間だらけだったこと、家のすぐ裏が山だったこと。村は厳寒期には-20℃をこえることもあるところだけど、寒くなってもパンの仕事場は夜中から暖房していたし、パンを焼いたあとはストーブを消しても窯の予熱で、いつまでも暖かく、加えてりんごや人参を使った酵母のあまい匂いがつねに満ちてたわけで。

あのお方には好条件がそろって、居心地のよい越冬の場所だったんやろね。で、どんどん仲間があつまって来て。

まして、ごぞんじのようにあの匂いを発する方、やからね。パン生地を捏ねてるときに、ぶーんと飛んで来て、ミキサーにポトンと入ってしもたら、生地ぜんぶ台無しになるわけで。

それまでは、夜中2時すぎにつれあいが起床して仕事を始め、わたしは一次発酵が終わった5時頃に仕事場に入り、パン生地の分割をし、つれあいが丸める・・という作業をしてたのですが、カメムシ大発生以来、わたしも一緒に早起きしてミキシングの際、カメムシが侵入しないように見張役となったのでした。

駆除薬をすすめられたりもしたけど、たべもの作るところで薬品は絶対使いたくなかったから。ていうか、わたしらはあとからやって来た住人なわけで。「出ていってくれ」なんて、それこそカメムシ側からしたら「そんなのあんたに言われたないわ」だろうしね(苦笑)

なやんだ末、飛行機内や新幹線内で使用されてるというウエストバック式掃除機というのを腰に装着して、温もった天井に点在する一味を、蛍光灯のそばにぶんぶん飛んでくるお方を、すまん、と掃除機の棒を伸ばして捕獲(なんやすごい図です)。作業がおわったら紙パックを捨てる~というのをくりかえしました。ふうう。思い出しただけでも泣けてきます。

もちろんご近所でもカメムシはいたようですが、どこのお宅もウチほどではなく、ベイキングのたび「ああ今日も無事おわったなあ」とつれあいと胸をなでおろしたことを、今となれば、なつかしく思い出します。

そうそう、『虫ぎらいはなおるかな?』にもカメムシは登場します。いちばんキョーレツにのこってるのは最初の藤崎先生のお話。日本は昆虫食文化圏に含まれるとのことで、先生もいろんな虫を食したことがあるそうで。曰く「いちばんおいしいのは蜂の子ですね。あと意外にいけるのはカメムシ!パクチー味でおいしい!」~きゃあ!もんぜつ。


その2)
NHK「子ども科学電話相談」 のHP「答えてくれる先生」というところ、おもしろそうなセンセがずらり。プロフィール読みながら、センセたちのこども時代をたのしく想像しています。


その3)
きょうはこれを聴きながら。クリケットとはコオロギのこと。そうそう、信州の家には網戸がなかったので(夏でも気温が低いから、蚊もごきぶりもいませんでしたが)カマドウマ(別名べんじょこおろぎ!)がよく入ってきたなあ。
My Cricket - Leon Russell
by bacuminnote | 2019-05-25 00:53 | パン・麦麦のころ