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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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そして百まで、それ以上まで。

▲母に会いに行ってきた。ちょうど朝いちばん姉1からメールがきたのでその旨伝えたら、「わたしも今日行くつもり」と返事がきて。母と姉、いっぺんに二人に会える、といそいそ出かけた。
老人ホーム入居から2年ちょっと。ホームのある街には以来何度も来てるけど、そのかわり吉野は遠くなった気がする。すでに母親をみおくった女友だちはたいてい「故郷は母の居る間」と言うのだけれど。たしかに。母=故郷かもしれないなぁ。

▲二年前ホーム入居がきまったとき、母用にシルバー仕様の携帯電話を申し込んだ。その数年前までは携帯で、電話はもちろんのことメールも送受信できていたんだけど(ときに句点読点なしノンストップ長文メールがあったり。なかなかの名(迷)文で。わたしは「石蕗(つわ)の花かしこで終わる母のメール」なんて句詠んだりしてた)やがて携帯がMOVAからFOMAに移行のさいだったかに一旦手放したようで、そのブランクの間に母は使い方をすっかり忘れてしまっており。自分でもその「みごとな忘れっぷり」には凹んでたみたいだけど、そりゃ仕方ない。80代~90代の時間の為せること、と思う。

▲で、メールはもう諦めて、とりあえず電話だけは、と母の携帯電話の写真を拡大コピーして厚紙に貼り、電話かけるときはここ、かかってきたときはここ~と解説カードを作ったり、あるときは急遽つれあいが出向いて(しかし彼もまた携帯はもってないんだけど。苦笑)レクチャーして来たこともあったっけ。

▲おかげでなんとか電話は使えるようになったので、姉1の入院中は母がホームの生活に慣れるまで毎日、日に何度も電話で話したりした。やがて、姉もぶじ退院して、母もすこしづつホームの暮らしにもなじみ「ここに来てよかった」とまで言うようになったんだけど。
一方慣れたはずの携帯電話なのに、今年に入ってから何度電話をかけても繋がらず、心配になってホームに直接電話して部屋に様子を見に行ってもらったり。結局着信音が聞こえにくい(故障?)ということがわかったんだけど。母自身が「もう(ひとりで)使えそうにないから要らない」と言い出して。今春、後ろ髪をひかれる思いで、解約したのだった。

▲というのも。
父亡きあと母ひとりになった時から、その後 新しい家で姉夫婦と三人で暮らすようにようになってからも、そして今回のホーム入居後も。夕方、ご飯のしたくをしながら、一杯ひっかけながら!台所からかける電話を母はたのしみにしてくれていたし。いや、わたしも、家族や友だちのこと、今日あったことを話したり、本や新聞のおもしろい記事や、このブログも音読したり。
夕ご飯の話になると「ほんで、いま何拵えてますのん?」「あんたとこは、きょうもまた鍋でっか~」と笑いあった日がしみじみとなつかしい。電話ができなくて、さみしくなったのはわたしの方かもしれない。

▲そういうわけで、今回も連絡なしアポなし訪問だ。いつものように母が昼食を階下の食堂ですませ、自分の部屋にもどって来る時間帯に~受付をすませて、ドアをノックして「お母さん~」と部屋の中に入ると、ベッドで横になっている母は、すこし体を起こすとこっちを向いて一瞬「だれ?」という顔をする。
娘としてはここで「わあ、くみちゃんよう来たなあ」と笑顔で迎えてほしいところなんだけど。母というたら。決まってつんと怒ったような、かなしいような顔をして。その後どすんと枕に頭を落とすと、あああ~と長い溜息をつくのだった。「あんた、もうな、わたし、こないだから、足は痛いし、体の持っていきようがないほど、なんか、もう、ものすごしんどいねん・・・」と止まらないのである。

▲ほんま、このひと(母)はいっつもこうなんやから。喜んでくれるかと思うて、あれこれ買って、わたしかて足痛いのに、遠路やってきてるのに・・こっちも「のに、のに」と心の叫びが止まらないのであって(苦笑)。
が、さすがにもう60すぎた四女やからね。かちん、ときてるんをぐっとこらえて、つとめて明るく話しかけ、買って来たお菓子や衣類を広げて話してるうちに、少しづつ少しづつ氷が溶けるように母の表情が緩んでくるのがわかる。そしてようやっと「遠いのになあ、ほんまによう来てくれたなあ。ありがとう」と満面の笑みで話し始めるのだった。

▲これ、何なんやろね。ひとりで噛み締めていたもの~ずっと言いたかったつらいこと、がまんしてたことが、ひさしぶりに会う娘の顔みて桶の栓が外れたみたいに、どどーっと一気に水が流れ出すのか。わかっていながら毎回腹をたててしまう狭量な自分にため息をつきつつも。せつないなあ。

▲そのうちノックの音がして。姉1が紙袋いっぱい持って到着。袋の中には姉のつくった葛餅やミルクゼリーやケーキや果物が入っており。さっそく母と食べる。わたしより7つ上の姉は、忙しい母にかわっておいしいもんいっぱい拵えてくれたひと。わたし同様、食べるのが大好きで大食だったけど、病気のあと元気になったものの、食も、からだも細くなってさみしい。それでもやっぱり「だれかのために」相変わらずおいしいもんを拵えてくれるやさしい○子姉ちゃん、いつもありがとう。

▲思いがけなく娘1と娘4ふたりの訪問に、母は寝ていられなくて起き上がって話をしては、また少したつとくたびれては横になる、をくりかえす。その間も姉妹のおしゃべりはにぎやかに続いて。気がつくと母は静かに寝息をたてており、姉がほら見てというように目くばせして。ふたりで顔見合わせて、くくくとわらう。
姉とわたしの話が弾むと(会話に入っていけなくて?じゃましたらあかんと思って?)母はふてくされたように背中むけて寝てしもたりすることがあるんよね。

▲やがて、はっとしたように目覚めた母に「よう寝てたなあ」と言うと、「娘らが ぺちゃくちゃしゃべってる声聞きながら、なんかしらんまに寝てしまうのって、ええもんやで〜」と言うと、ふふと微笑んで夢の続きをでもみるようにまた目をつむった。じつ言うと、わたしはそのときの母の寝顔がしずかで透きとおるようだったから。もしかしてこのまま目を開けないんとちゃうやろか、と思うて、ちょっとどきどきしたんだけど。

▲その後、車の免許の話になり、姉が「わたし75歳になったら免許証返納しようと思うねん~」と言い出して、「せやなあ」と相槌打ってたら、母が「そら、こまるなあ。○子さんが運転できんようになったら、ここに来てもらえへんやん・・」と言うのである。一瞬「ん?」と沈黙のあと「まだ4年も先の話やで。百までいく気満々やなあ、お母さん。せやで。お母さん、いってや~百歳まで、それ以上でも」と、姉と笑った。
たのしくて、お菓子もおいしくて、穏やかな、ほんまにええ時間で、うれしかった。きっと三人ともうれしかった、とおもう。




*追記
その1)
きょうは読んだ本のことを書けなかったので『BOOK MARK』という小冊子のことを。2015年翻訳家の金原瑞人さんの個人誌として創刊されたものです。
おなじく翻訳家で書評も書いてはる三辺律子さん、表紙はオザワミカさんのかっこいいイラストでCDサイズのかわいらしい、しかし、中はディープな冊子で、そのつどテーマに沿って、十数冊、翻訳者自身のよる本の紹介。図書館や書店には無料でおいているようですが、残念ながらわたしの近くにはなく、そういうひとのために個人発送というのもしてもらえます(送ってきたあとで、封筒で切手164円分を同封して送る)ので、ぜひ。今回ではその14号。テーマは「against!」「ノー」と言うこと。
リンク先には冒頭の三辺律子さんの文章も(よかった!)載っているので、ぜひ読んでみてください。

編集後記にあった金原さんのことばを引いてみます。
《大学の授業で、キング牧師の演説「ヴェトナムを超えて」を読んでいたら、そのなかに、"A time comes when silence is betrayal."という言葉が出てきた。彼が「もう黙ってる時ではない」といってから50年。世界をながめると、もうそろそろ、人類に絶望しようよといいたくなるけど、ここに紹介したような本に希望を託したい。》



その2)
このまえ、また知っているひとの訃報に、しゃがみこんでしまいました。個人的なおつきあいはなかったけれど、十代のころ旧友jとガッコより足繁く通ったロック喫茶では、彼が店に入ってる日、かけるレコード(選曲)が大すきでした。いつだったか店内の掲示板に貼ってあった「中古レコードうります」の紙に”tちゃん”から買ったのがトム・ウェイツのクロージング・タイムでした。

後年(10代からいきなり50代になって)再会したとき、そのことをいちばんに話したんだけど、残念ながら覚えてはらへんかったのですが。ここ数年はSNSでおすすめの曲をみる(聴く)のを一方的にたのしみにしていました。68歳。早い。早すぎるよ、みんな。あ、けど、むこう側ではjも「お、tちゃん来たんか~」とか言うてるのかなあ、すきな音楽ずっと流れてるのかなあ、と夢想したりしてます。rest in peace~



その3)
わがセイシュンの京都は堺町通錦小路上ル「名前のない喫茶店」を思い出しながら。きょうはこれを聴いています。
♪”And if one day you should see me in the crowd
Lend a hand and lift me to your place in the cloud”
Nick Drake - Cello Song→

by bacuminnote | 2019-06-25 19:19 | yoshino