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いま 本を読んで いるところ。


by bacuminnote
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おでかけ中。

▲もうずいぶん前にわが家の息子らは大人になって。
ちいさいひとを見るのは買い物や図書館への道中くらいなんだけど、なんでか散歩中の犬とベビーカーの中の人とは目が合うことが多い(うれし)。もっとも、むこうにしてみたら、馴れ馴れしく「おば(あ)ちゃん、こっち見ないでよ~」かもしれないんだけどね。
ここ数年はわたしの年格好からみて「お孫さんは?」とよく聞かれる。「いません」と応えると、「あらあ、それはさみしいねえ」「孫って可愛いよぉ」と返ってくることが、けっこうあって。

▲孫がかわいいのはほんまよくわかる(気がする)。けど、だからといって、いないひとは「さみしい」なんて勝手に決めんといてほしいなあ~と思う。
「自分の」こどもがいても、いなくても。「自分の」孫がいてもいなくても。シアワセの道は何本でも何本でもあるのであって。
自分ちの子もよその子も。知ってる子も知らない子も。こどもという存在はものすごく大きくて、そして愛おしい。
せやからね(話が大きくなってしもたけど)大人はこどもを守らなければ、とつよく思う。

▲さて、選挙だ。先日「選挙期間中はすべての政治課題を判断する基準を『子どもを守れるかどうか』にしようと言いたい」という候補者(安冨歩さん)のスピーチの動画を観た。
わたしのはyoutube無料版だから、目当ての動画を観る前に広告が入るのは、まあ仕方ないにしても。よりによって、いちばん見たくない「しっかりと」「いわば」「まさに」「その中において」の人の顔が大きく映し出され、いつものように空疎なことばを聞かされるのには、しんそこうんざりする。と、「これだけははっきりと申し上げておきたいと思います」(苦笑)

▲このあいだTwitterで出会ったことば。
《「そんなことはありえない」と思われてきたことの積み重ねが歴史。「できそうなこと」ばかり要求するのは、現実的なのではなく、むしろ現実の放棄。》
思わず、パソコンの前で「そのとおり!」と声をあげてしまった。そもそも、選挙だって、この国の女性が初めて参政権を得たのはたった73年前のことであり。それまでは、女性が投票することも、立候補することも、「ありえない」ことだったのだから。「それはおかしい」と立ち上がった女性たちを中心に不屈の意思と運動で、ようやく勝ち得た権利なのであり。
候補者のアピールに耳を傾け、よく考えて。選挙に行こう。
VOTE FOR DEMOCRACY !

▲それにしても、前回の更新からずいぶん日が経ってしまった。ひさしぶりに墓参にでかけたり、これまた何年ぶりかで障子の張替えをしたり、遠方から若いひとが訪ねてくれたり。わたしにしたらよく動く半月で、本もあまり読めないまま気がついたらもう7月も2週目のおわりとなった。

▲先日のこと、図書館で本を返したあと何気なく書架を眺めていたら、『永遠のおでかけ』(益田ミリ 毎日新聞出版 2018年刊)という本と目があって。表紙カバーの絵は筆者の描く素朴な感じの野の花や猫で。本を手にするや同時に旧友jの顔がうかび、見たらあかんもん見てしもたこどもみたいに、とっさに書棚に本を差し戻したんよね。

▲それでも、やっぱり気になって、結局は借りて帰ってきて、ゆっくりシロツメクサやれんげ草や猫の絵と、表題の7文字を眺めた。
jとは「音信不通」になって、もう5ヶ月が過ぎて。なんせ、こんなにも長い間やりとりがないのは、出会って以来46年の間で初めての経験なわけで。ふしぎなきもちのままの長いブランクであり。
ああ、けど、そうか~キミは「永遠のおでかけ」中なんやなあ~とその時、のどの奥で溶けずにあったちいさな飴玉が、つるんと思いがけず簡単に落ちた気がした。

▲人に会うのも、緑や花がいっぱいの、猫のいる公園行きも。「おでかけ」のすきだったjが、その歩く姿が、とたんにあざやかにうかんできて。それは少しさみしくもあり、でも、とても楽しい想像であり。その日わたしは自分でもびっくりするくらい、ひさしぶりに軽やかなきもちになった。

▲「おでかけ」というたらjが5年前に入院したときのこと。
当初は本人いわく術後10日ほどで退院の予定が長引いて一ヶ月ほどの入院となった。病院はウチの最寄り駅からバス一本で行ける所だったから、その間(かん)わたしは何度も病室をたずねた。それは見舞うというよりは、お茶菓子持って友だちの下宿先を訪ねるようなもので、ひたすらしゃべりに行ってたんだけど。
ところが病室の窓際の彼女のベッドは、もぬけの殻のことが多かったのである(苦笑)。

▲近いところでは同じ階のデイルームか、上の階の自販機コーナー。病院のパジャマにドレーンの箱の入ったポシェットを斜めがけして、ときには病棟の外にも出かけており。
どうやら、しょっちゅう広い大学病院の敷地内を散策してるらしく、行くたびに「あんなあ、ええとこあるねん」と秘密基地をみつけたこどもみたいに、目をキラキラさせて得意そうに教えてくれるのだった。

▲看護師さんには「長いこと、どこに行ってはったんですか?」と怒られたりもして。しばらくはおとなしくして、また懲りずに出かけてたみたいで。何階の自販機コーナーは窓辺に椅子があってええ景色、◯棟◯階ロビーの絵画がすごいねん、敷地内の公園やその中にある(大学関係者用の?)喫茶室なんてのも案内してくれたりして。(うらたじゅん作品集『冬のプラネタリウム』の表題作に出てくる病院はたぶんここ)
そういえば、退院のおしらせと礼状?は最上階のレストランの紙ナプキンに書かれてたっけ。
ほんま、どんな場所に、どんな時にあっても、たのしみを見つける天才やったなあ~。

▲そんなこんなを思って、本文を読むまでに時間がかかってしまったんだけど。この本『永遠のおでかけ』は著者の叔父さんが亡くなるところから始まる。そして、その後一年も経たないうちに、こんどは父親の病気がわかり「余命」をも告知されることになって。著者は東京から新幹線に乗りジッカのある大阪になんども往復するんよね。
どのエッセイ、エピソードも、わたしの父の思い出と被さるんだけど。父の死からはもう三十余年も経っており、もうたいていのことは笑って話せるようになっている。
でもjのことはそういうわけにはいかず。

▲で、何度も立ち止まるんだけど。泣きそうになったすぐあとから、ふふふっと笑ってしまったりして、ね。これは益田ミリというひとのもつ嘘のないまっすぐなところ、ユーモアや温かさと、案外クールなところゆえ、と思う。そして会話の大阪弁の深刻ぶらないところに(これは大阪弁の「ええも悪いも」なところ、といつも思うんだけど)逆にじんとする。そういえば、jもええ文章書くひとやったけど、わたしが絵を描くひとの文章をすきなのは、その視点かなあ。

▲いちばん心にのこったのは、著者が《死んだ父親に会いに行くという、人生最初で最後の帰省》に新幹線に乗る場面で。わたしにとっては、33年前の11月~近鉄電車に乗って父に会いに行った日、今年2月~京阪電車に乗ってjに会いに行った日のことを思い出さずにはいられなかったから。

▲著者は品川駅構内で、サンドイッチといなり寿司を大量に買い、よろけながら新幹線の切符を買う。そして座席は富士山側をえらぶんよね。帰省のとき「今日、新幹線から富士山見えたで」と報告すると、いつもお父さんが「そうか」とうれしそうだったから。

《今夜、わたしが帰るまで、生きて待っていてほしかった。母からの電話を切ってすぐはそう思ったのだが、新幹線に揺られる頃には、それは違う、と感じた。これは父の死なのだ。父の人生だった。誰を待つとか、待たぬとか、そういうことではなく、父個人のとても尊い時間なのだ。わたしを待っていてほしかったというのは、おこがましいような気がした。》(p72 より抜粋)

▲さて、わたしも著者の言うように、ギコギコ漕ぎ続けよう。つねに真摯に自分のすきなことにむかってた友に恥しくないように。《自分の自転車に油を注し、ギコギコ漕ぎ続つづけるしか、前へは進めないのだ》(p128)



*追記
その1)
先日、東京で北冬書房と貸本マンガ史研究会が発起人となって「うらたじゅんさんを偲ぶ会」が催され、とても佳い集まりやったそうです。多くのひとが彼女の作品を愛し、これからの活動を期待し、だいじに思ってはったかということ、何よりみなに愛されるひとであったことをあらためて思っています。
《じゅんさんにゆかりのある方々のスピーチを聞くと、そこに共通してあらわれるのは彼女の〈やさしさ〉であり、マンガに向う精神の〈強靭さ〉のようでした。》(貸本漫画史研究会ブログ より抜粋)

きょうはjと共通の友だちに会って(というか会うたびに)ミニ偲ぶ会。話せば出てくる出てくる ずっこけエピソードに「ほんま、あほな子やなあ」と大きな口あけて笑うたあとは、「ええ子やなあ」とちょっとしんみりして、閉会。また会合しよう。


その2)
『父の仕事場』(林哲夫)という冊子を読みました。これは「林哲夫作品展:父の仕事場」と題した展覧会(2018年12月8日~19日 ギャラリー島田)で会場にて展示された道具類の写真集とエッセイ中編4編を収録されたものです。
B5判で32頁の薄いものですが、表紙の「空」と題された鳥の巣の油彩画(すばらしい!)から、林氏のお父さんが使ってはった畑の道具類の写真も、氏の故郷(讃岐)の思い出を綴ったエッセイも(ここでも絵を描くひとの文章にうなる)ぜんぶ、読み応えのある一冊でした。長年使われてきた道具はどれもみなうつくしい。おすすめです。
ブログ内に写真集の購入サイトや、その中のエッセイ一篇が紹介されています。→”daily-sumus2”

そういえば、この林哲夫さんという方をおしえてくれたのも「うらたじゅん」でした。


その3)
きょうはこれを聴きながら~ ”溺れる前に泳ぎ始めよう” Bob Dylan - The Times They Are A-Changin'

by bacuminnote | 2019-07-12 21:37 | 本をよむ